To smile
……。
俺の中で何か強い感情がこみ上げ、
俺は思わず女の手を掴んだ。
「行くな…。」
「え…!?」
女は驚いた顔をしてとまどいながら、
俺の手を振り払おうとする。
「ハルト…ちょっと、離して…!」
拒絶の意志が伝わって、
俺の胸が苦しくしめつけられる。
『お願いだから、行くなよ…。』
そう口に出そうとしたが、声が出ない。
それどころか、手をつかんでいたはずの女が
遠く離れていく。
どうなってるんだ…!?
おいっ…待て…!
俺は必死に手を伸ばすが、
女はさらに遠ざかり、消えていく…。
そして、気がつくと辺りにはこの間までいた
白砂の大地が広がっている。
……。
また、ここに戻って来たのか…。
なぜか、今ならあの川を渡ってもいいと
思える気分だ。
「……ル!」
その時、遠くから声が聞こえた気がした。
聞いたことあるな…。誰だっけ…。
「ハル…!だい……ぶ!?」
……。
あぁ…あのお節介か…。
お人好しで、
一生懸命で、
すぐ色々考えすぎて、
世話がやけるけど…
このまま放っておくわけにいかないよな。
…まだ、
あの川は渡らないでおくか。
俺は声のする方へ足を向けた。
やがて、俺はあの湖の前にたどり着いた。
湖の中には、動かない俺を心配そうに
見ている笑咲の姿が見える。
…そんな不安な顔するなよ。
俺は、ゆっくりと湖の中に身を投じた。