To smile
男の手に掴まって川から上がると、
さっきまでキレイだと思えた景色にも
恐怖しか感じられなくなっていた。
「帰りたい。死にたくないよ…。
どうしたらいいの…。」
涙を流しながら苦悩する私に、
追い討ちをかけるように男が言った。
「あんまりここに長くいると、
記憶も薄れていくみたいだから、
帰りたいなら早くした方がいいかもね。」
「そんな…。」
青ざめる私を横目に男は続ける。
「俺はかろうじて自分の名前がわかる
くらいになったかな。」
そんな悲しい事を平気で話せるなんて、
この人どうかしてる…!
「あなたどれくらいここにいるの?
帰りたくないの…?」
私の質問に、面倒くさそうな顔をしながら
男は答えた。