To smile


「これ…あの男?」


そこには、少し幼さの残る少年と、

少女が一緒に写っていた。


あの男もこんな風に笑うんだ…。

彼女かな…?

記憶なくなったって言ってたけど、

彼女のことも忘れちゃったのかな…?



そう考えると、

あの男も本当は辛いのかもしれない…

と思えてくる。


私は写真を持って男に近づき、

強引に手に写真を握らせた。


「これ、多分あなたがここに来る前に

最後に手に持ってたものだと思う。

どんな理由で迷ってたか知らないけど、

あなたにも大切な人がいるんじゃないかな。」


男は写真を見て少し考えると、

悲しそうにつぶやいた。


「すげー大切だったはずなのに、

思い出せないな…。」


そして暫く黙りこむと、

ふとある方向を指差して言った。


「一度だけ、あっちで人を見た。

一瞬光ったと思ったら姿は消えてた。

もしかしたら、

帰れるヒントがあるかもしれない。」


「ほんとに…!?」


少しでも帰れる可能性があるなら…


私は男の指す方向へと足を向けた。

< 7 / 35 >

この作品をシェア

pagetop