ヘヴン
スーパーを出て、アパートへの道を急ぐ。


期待と興奮でどきどきと高鳴る胸に、買ったばかりの箱を抱えて。



これは、魔法の箱。


この中に、あなたに会える魔法が詰まっている。



魔法の粉と魔法の箱があれば、魔法は完成して、私の願いはきっと叶えられる。



階段をかけあがり、玄関のドアを開いて部屋の中に飛び込んで、さっそく箱の蓋を開けた。



白、黒、赤、青、黄、緑、茶、橙、桃、紫。


箱の中には、色とりどりの絵の具のチューブが整然と並んでいた。



テーブルの上に置いておいた、魔法の粉が入った小瓶を手にとる。


絵の具の箱をひっくり返すと、床の上に色が飛び散った。



きれいだ。


このきれいな魔法の絵の具に、魔法の粉を混ぜて、あなたを描く。


そうしたらきっと、あなたに会える。


あの歌にあるように。



パレットに絵の具を出そうとして、ふと気がついた。


絵を描くのなんて中学校ぶりだから、この部屋には絵の道具なんかない。


パレットも、筆も、筆洗の容器もない。



仕方がないので、私はチューブの蓋をあけ、床に直接、絵の具を絞り出した。


味気のないベージュのフローリングを、鮮やかな絵の具の塊が彩っていく。



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