不器用な愛を刻む
その後すぐに
家を飛び出すようにその場を離れ
……あの、橋のところまでやってきた。
枝垂れ桜の生える
霊が出ると噂の "自殺橋"と呼ばれる橋だ。
荒い川が下に流れるこの橋から
身投げをすれば
確実に自分も
生きてはいられない。
その橋の中央に立ち
いざ下に顔を向けて眺めてみた時だった。
「---嬢さん、夜道を1人で歩くなんざ
物騒な真似…しちゃマズイだろ。」
ふと横の方から
自分に向けてそう声をかける
男の声が聞こえたのだ。
椿は顔を上げて
その声のする方向に視線を向けた。
するとそこには
町中では見かけたことのない
珍しい見なりの男が
妙な笑みを浮かべながら
こちらを見て立っていたのだ。
「……貴方には関係ないでしょう。
それにもう…夜歩きなんてこれが最初で最後ですから。」
だから気にしないでください。
そう男に告げて
椿は再度、橋の下に視線を移した。
-----ここへ落ちれば、全て終わる。
家族全員
運命を共にしよう。
そう覚悟を決めて
身を乗り出そうと腕に力をかけた。
その時---
「死ぬつもりならやめておけ。
その命-----代わりに俺が貰ってやる。」
ふとすぐ耳元で
そう囁く声が聞こえたと思えば
そのまま後ろから抱き止められ
彼を見上げれば
そこには---刺すような強い視線で
椿を見下ろす瞳と目が合った。