不器用な愛を刻む
(……善が目覚めるまで)
彼が目覚めるまで
自分が彼女を預かっておく。
喜一はそうした意図をもって
彼女にそんな話を持ちかけていた。
──もちろん、椿と
本当に結婚をするつもりはない。
婚約者と言う名で
そばにしばらく置いておくつもりだった。
彼女が善から
離れるというなら
自分がそれを 何としても止めておかなければ。
喜一は自分に
そうする義務があると
勝手ながらに 思っていた。
(……親友の好いた人だからね。)
善の生い立ちも全て知っている
喜一だからこそ
彼にとって椿が
どれほど大切な存在なのか
よく 理解していた。
…彼が目覚めた時に
椿がいないなんてことのないよう
自分が、その役目を果たす。
喜一も喜一なりに
そんな決意をしていたのだ。
「……どうする、椿ちゃん。」
───選んで。
そう言った喜一の言葉に
少し沈黙が置かれ
そしてその後
椿の口が静かに…開いた。
「…………私は……」