不器用な愛を刻む
バタバタバタ-----!
廊下からやけに騒がしく
こちらに走ってくる音が聞こえて
善は視線を
音のしてくる側の障子に向けて
黙って待っていた。
そしてすぐに
バンッ!!と勢いよく障子が開かれる。
「っ………善……!!」
「……よォ喜一…久々だなァ。」
昨日まで
上半身に包帯を巻かれ
着物を綺麗に着させられたまま
そこに寝ていた男が──
今までのが嘘のように
そこへ体を起こして
いつもの笑みを浮かべてこちらを見上げている。
──その口調も声も、以前と変わらない。
「っ……善…。」
「ククッ、おいおい何泣いてんだァ?
真っ黒い正装に似合わねェ面だぜ?」
思わず涙目になりながら
目頭を抑える喜一に
からかうような言葉を向ける善。
今が何月の何日かなんて
善自身、細かい期日は知らない。
しかし
最後に見た覚えのある景色が
桜だったはずなのに
こうして外を眺めると
葉が散っている。
それを見て
言わずとも半年以上の月日が経過していたのは善も分かっていた。
---その間、長い夢を見ていたように思う。
生まれてから
あの日までを振り返る、長い夢。
それから目覚めて
"こちらの世界"に戻ってこれたことが
何となく、幸せに思えた。
………そこに
彼女がいたならば。