不器用な愛を刻む
「ククッ、結婚控えてるたァ
おめでたいことだぜ…まったく。」
「っ…善、それは…。」
おそらく
自分の前にここへ来た人員の誰かが
ボソッと善に教えたりしたんだろう。
他の仲間には
椿にむやみに近寄らせないために
婚約している話をしてあったから---。
「善、実はそのことなんだけど---」
「あぁ、前に俺が言ったことだろ?
確かに『椿に手出すな。』とは言ったが
別にそんなもん、気にしなくていい。」
喜一がこうなった経緯を話そうとすると
善はそれを遮るように
小さく笑みを浮かべながら
喜一に、そう言った。
「椿はお前のこと好いてんだ。
それを止めるつもりは毛頭無ェよ。」
「-----善。」
「2人で幸せになれよ?
俺はお前らのこと心から祝うぜ。」
──お似合いだしな、お前ら。
喜一の声を遮って
そう祝いの言葉を向けてくる善に
喜一は少し黙り
そしてやがて真剣な顔になって、
静かに 善を見た。
「実際俺よりお前のが頼りになるしなァ。
…俺のそばにいるより、ずっと幸せだろうよ。」
「……それ、本気で言ってるのか 善。」
「………。」
---喜一も、善の気持ちに気付いていないわけじゃない。
以前から椿を大切にして
大事に好いていたのを知っている。
そんな彼のために
あの時自分が椿を引き止めたのだから。
(…確かに俺が、婚約なんて形で
彼女を引き留めたのもいけなかった。)
他の手を考えるべきだったとも思うが
それにしても……こんな様子の善に
喜一はあまり良い印象を持たなかった。
「本当にそれで、いいと思ってるのか。」
「………何言ってんだ喜一。
いいと思うに決まってんだろ?」
あいつは──
「…あいつはお前といた方が、幸せになれる。」
そう言った善の声が
静かに部屋に…響いた。