不器用な愛を刻む
もちろん
善が強がって言っていることは
喜一も承知の上。
善の性格上
素直に自分の気持ちを
吐き出すようなことは滅多にない。
(……無かったことに、するつもりか…。)
強がって思ってもないことを言うことで
自分が彼女を好いていたことを
忘れようとしているのか───。
喜一は善の言動の意図を知って
さらに声を険しくして
握った拳に力を入れた---。
「……嘘つくなよ。」
「嘘じゃねェ。」
「っ、それが嘘だって言ってんだよ!!」
ついに
耐えきれなかった喜一が
珍しく声を荒げて
善へ言葉を投げつける。
…善はそんは喜一と
目を合わせようとしなかった。
「……好きなんだろ、彼女が。」
「…好きじゃねェ。」
「じゃあ何であの日、助けに行ったんだ。」
取り乱して叫び探していただろ、と
喜一が核心を突くように
彼に尋ねると
善は一瞬視線を下に下げてから
外に視線を向けて
喜一から 顔を背けた。
「……忘れたな、そんなこと。」
そしてそう低く呟いた。
喜一はそんな態度を示す善に
苛立ちを覚えると同時に
その切なそうな背中を見て
僅かに…罪悪感が生まれた。
「……ずっと、そうやって偽っていればいいよ。」
「………。」
「…善……
その首の刺青、誰のために入れたのかよく思い出せ。」
喜一はそう言うと
腰を上げて立ち上がり
静かに障子をあけて、
部屋を出て行った。