不器用な愛を刻む







(………。)







喜一が出て行き

部屋に1人になった善は




静かに
自分の言った言葉を振り返っていた。









(……ハッ、よく言ったぜ俺も…。)








2人で幸せになれ?

心から祝う?







───ふざけんじゃねェよ。










「俺が…俺があいつを、幸せにするつもりだったんだ…っ。」









青戸からの依頼も全部断って
今までの仕事も全部やめるつもりだった。




あの屋敷の地下から椿を助け出した時に
心にそう誓った。










「でも……椿がお前を好きなら
仕方ねェだろ……っ…。」











自分が幸せにするつもりだった




けれどそれは


椿が喜一を好いているとは
知らなかったから──。










善は顔を歪めて
何かに耐えるように…唇を噛んだ。



それと同時に
胸が燃えるような気持ちが

ドクドク---と、生まれてくる。










(───俺のいない半年の間に)









あの2人は

想いを通じあわせた。






いつどこで何があって

どんな経緯で

2人が結ばれたのかも




どんな風に想い合っていたのかも









───寝ていた自分には 何もわからない。











(………もし、俺が "いない" 間に
椿が喜一を好くようになったんなら。)








そんなことを考えて

悔しくどうしようも想いが
胸を駆け巡る。




寝ているだけで
何もできなかった自分の向こう側で



想いが生まれていた──。








こんなことほど

納得がいかないことがあるだろうか。








諦められることでも

諦めきれない───。










「っ……椿…。」









俺はどうやって




お前を忘れればいい──?










< 111 / 180 >

この作品をシェア

pagetop