不器用な愛を刻む
(………。)
喜一が出て行き
部屋に1人になった善は
静かに
自分の言った言葉を振り返っていた。
(……ハッ、よく言ったぜ俺も…。)
2人で幸せになれ?
心から祝う?
───ふざけんじゃねェよ。
「俺が…俺があいつを、幸せにするつもりだったんだ…っ。」
青戸からの依頼も全部断って
今までの仕事も全部やめるつもりだった。
あの屋敷の地下から椿を助け出した時に
心にそう誓った。
「でも……椿がお前を好きなら
仕方ねェだろ……っ…。」
自分が幸せにするつもりだった
けれどそれは
椿が喜一を好いているとは
知らなかったから──。
善は顔を歪めて
何かに耐えるように…唇を噛んだ。
それと同時に
胸が燃えるような気持ちが
ドクドク---と、生まれてくる。
(───俺のいない半年の間に)
あの2人は
想いを通じあわせた。
いつどこで何があって
どんな経緯で
2人が結ばれたのかも
どんな風に想い合っていたのかも
───寝ていた自分には 何もわからない。
(………もし、俺が "いない" 間に
椿が喜一を好くようになったんなら。)
そんなことを考えて
悔しくどうしようも想いが
胸を駆け巡る。
寝ているだけで
何もできなかった自分の向こう側で
想いが生まれていた──。
こんなことほど
納得がいかないことがあるだろうか。
諦められることでも
諦めきれない───。
「っ……椿…。」
俺はどうやって
お前を忘れればいい──?