不器用な愛を刻む
「……今まで、ご迷惑おかけしました。」
「…気にするな。
他人と生活するのも、そんなに悪くなかったぜ。」
そんな会話をしながら
2人はお互いに
別れを交わす覚悟をして
相手に…言葉を向ける。
「……善様。」
「あ?」
「…2度も、命を救ってくださって
本当にありがとうございました。」
「……あぁ。」
-----ずっと、彼に言えなかった言葉。
椿はその言葉を口にすると
背中を向けている善へ
深々と…頭を下げた。
命に代えて
自分の身を庇ってくれたこと…
椿はそのことに対しても
深々と…お礼を言った。
「…俺ァ 明日にはここを出る。
きっと…お前ともこれが最後だ。」
「……はい。」
「……幸せになれよ、椿。」
俺が助けた命、無駄にすんじゃねェぞ?
と
笑みを交えた声色で
そう椿に告げると
椿は静かに
勿論です、と答えた。
……そして 椿が立ち上がる。
その音が
2人の時間の終わりを告げる
合図だった。
「…毎日ここで看病してくれたと聞いた。
……ありがとな、椿。」
「……はい。」
それを聞いて
椿は障子に手をかけて
そして静かに…スッと開ける。
「………じゃあな。お幸せに。」
「……はい。
…どうか……お元気で。」
その言葉を交わして
椿は部屋を出て
そっと 障子が───閉められた。