不器用な愛を刻む
「---っ、ぅ……!」
…閉めた障子の先で。
椿はその部屋から離れるように
廊下を歩きながら---泣いた。
声を押し殺して
何度も何度も
溢れてくる涙を指で拭った。
───これで、本当に終わった。
もう彼の元に
帰ることはない。
きっと、顔を合わすこともない。
自分でそうなることを望んだのに
椿は苦しくなる胸を
手で掴むように押さえる。
(───あぁ、善様。)
死ななくて良かった。
生きててくれて良かった。
また会えて良かった。
もう一度声が聞こえて良かった。
伝えたいことや
言いたいことはたくさんあったのに
そのことは何も…言えなかった。
ただ気持ちを悟られないよう必死で
偽りで塗り固められた気持ちを
彼に伝えて
それで……残ったものは
罪悪感と、後悔。
(……そういえば
1度も顔…向けてくださらなかったな。)
「ははっ……そうよね。
自分を死にかけさせた女の顔なんて…見たくないわよね。」
きっと
重荷がなくなって
彼も清々しているだろう。
好きなわけでもない女の
命を守るために自分が死にかけるなんて
彼にとっては……きっと最悪な事だったでしょうに。
「ごめんなさい…。
本当に、ごめんなさい。善様…。」
それでも貴方を愛している
自分をどうか……罵り憎んでください。
椿はそう思いながら
その場にしゃがみ込んで
1人で静かに…泣いた。