不器用な愛を刻む
「………。」
善は フー…と煙管から息を吐きながら
その建物を見上げる。
以前と変わらず
少し古臭いその建物の
扉に手をかける。
ガラガラガラ──。
扉を開ければ
もちろん、
誰もいない静かな部屋が あるだけで。
けれどそこに踏み入れてみれば
善はどこか
違和感を覚える。
(………まさか。)
善はその違和感に対して
思い当たる節があり
早足に
2階へと上がった。
そしてそこで
確信を得た。
(……ここに、来てたんだな。)
善は自分の部屋と
椿の部屋を見て、そう確信した。
隅々まで
綺麗に片付けられていたのだ。
…半年も空けていたのに
以前と同じように
綺麗に保たれているなんて
普通ならありえない---。
いつもは入れなかった自分の部屋も
いつもなら本が散らばっているはずなのに
それらが綺麗に、棚に片されている。
そして椿の部屋からは
いくつかの家具や
衣類が無くなっていた。
──彼女以外に
そんなことをする人はいない。
(……ったく…本当によく出来た女だ…。)
帰ってくるかもわからない
主人のために家を守ってたなんて---。
善はそんな椿のやっていたことに
思わず、笑みをこぼした。
(……本当に、堪んねェよ。)
どこを見ても
お前の残像が見える───。
1人部屋を見渡しながら
そう思う善は
また苦しげに、顔を歪めた。