不器用な愛を刻む
そしてその後
善はあの夜椿に告げた通り
ある日の夜に
例の男を見つけ出した。
「…こりゃあ偶然だなぁ…。
こんなところで会えるなんざ俺は運が良いぜ 旦那。」
「……何者だ…?…追っ手か…?」
あの日も着ていた
上等な羽織りの着物に
煙管を吹かせながら
冷たい笑みを浮かべる善。
そんな彼に
警戒心を放ちながら
腰の刀に手を掛ける男。
善は彼の言葉に
妖しく笑みを深めながらも
その目は決して---笑っていなかった。
「追っ手…?
残念ながら-----俺ァあんな役立たずの
お役人なんかじゃあねェよ。」
そう言いながら
善は吸っていた煙管を消して
それを着ている着物の内側に仕舞えば
たちまち浮かべていた笑みを消して
殺すような視線を
視界の先にいる男に向けた。
「…さて旦那ァ、別れの時間だ。」