不器用な愛を刻む
喜一は納得いかない気持ちを
抱きながら
椿を、再度説得する。
「…善は椿ちゃんを待ってるよ。」
「……そんなことないです。」
「あるんだよ。
…あいつは昔から、素直じゃないんだ。」
だからきっと
椿ちゃんに対しても
素直になれなかったんだよ。
───本当は、行って欲しくない癖に。
「…………私は戻りません。」
「……善のことは、どうでもいいの?」
「っ…どうでも良いなんてっ…!」
「そうだよね、思ってないよね。」
真剣な声で
椿へ静かにそう言う。
そして喜一はそのまま
真っ直ぐな視線を
椿に向けた。
椿は
その視線を静かに受け止める---。
「───そう思うなら尚更
善のところへ戻るべきだよ。」
喜一は強く
そう椿へ主張した。
-----善が1番望むこと。
それは1人気楽に生きていくことでも
椿を外に送り出すことでもない───。
(……彼は…善は椿ちゃんが ただ…)
そんな風に喜一は思いながら
あと一押し
どうにか彼女の背中を押せないか──と
口を開きかけた
その時
「───椿。」
静かな低い呟きが
2人の耳に届いた。