不器用な愛を刻む
(……え………?)
部屋には
椿と喜一の姿だけ。
喜一が発したものではないのを見て
椿は静かに──鼓動を鳴らせた。
この声を
自分が間違えるわけない。
喜一の先───きっと扉の向こうから
その声は 発せられた。
椿はそう確信すると
思わず目に涙を浮かべて
顔を下に、俯かせた。
「………善…?」
「…そこに喜一もいんのか。
ククッ、こりゃあ好都合だな……。」
───ガチャッ
許可を取らず
扉を開けて、中に入ってくる善。
そこにいつもの妖しい笑みはなく
真剣な面持ちで
部屋に向かい合わせに立っている2人を
冷ややかに 見つめた。
「……何だ?
改めてプロポーズでもされて
嬉し泣きでもしてたか、椿。」
「…っ……………そう、です…。」
冗談のつもりで言った一言に
椿がそう静かに返してきたため、
善は少し眉を寄せた。
椿は嘘であっても
別れる覚悟をしていたため
わざとそんな答えを言ったのだ。
それを喜一も善も
もちろん承知の上─────。