不器用な愛を刻む








「……喜一。」









そんな時、突然喜一が名前を呼ばれ
静かに視線を善へ向けた。



善は笑みをそのままに

妖しいながらも強い視線で
喜一を見ながら










「─────返せよ、俺の椿。」

「-----!」










ただ静かに
低い声でそう告げた。




それが何を意味するか
喜一はすぐに察して、フッ…と笑みを浮かべる。









(……やっと、覚悟が出来たんだね。)










「…それじゃあ、僕の役目は終わりだ。
邪魔者は退散することにするよ。」

「っ、喜一さん……?!」









そう善に告げて

目を伏せ、部屋を出て行こうとする喜一に



椿が、それを引き止める。







しかし

その伸ばされた手に
喜一は優しい笑みを浮かべながら

ソッ…と

それを避ける。






そしてそのまま扉を開けると




───ガチャッ







部屋を後にした。












「………椿。」

「っ……。」











残された2人に



静寂が訪れる。








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