不器用な愛を刻む
少しの間沈黙する。
窓の方へ向いて
そこから入ってくる柔らかい風を
体に感じながら
椿は下を向く。
───文を、見られてしまった。
何を書いたかなんて
言われなくても分かっている。
あれは
善がまだ眠っている間
喜一との婚約を決めてから
荷物を取りに行った時に書いたもの---。
しかし、書き終わってから
その文は自分で持ち帰ったはずだった。
───そう、はずだった。
「………椿。」
(───!!)
そんなことを考えていれば
不意にすぐ後ろから
名前を呼ばれ、椿はドキッとする。
いつの間に真後ろにやってきたのか
椿は驚いて
咄嗟に振り返り
そのまま、後ろへ下がろうとした。
しかし
自分から逃げるような椿のその態度に
善が彼女の腰に手を回して
それを阻止する。
──それによって距離が縮まり
抱き寄せられるように
善の元へ体を引かれた。
「っ……善さ…!」
「俺を見ろ、椿。」
───ギュッ
慌てる様子の椿に
善がさらに腕に力を込めて
引き寄せる。
体を密着させられた椿は
彼の着物からする
ほのかな煙の匂いに
懐かしさを抱いた──。
それと同時に
善の鼓動と
自分の鼓動が
静かに…重なる。