不器用な愛を刻む
「………俺を見ろ、椿。」
「………っ。」
顎にそっと指をかけられ
クイッと上げられる仕草に
ゾクゾクする---。
視線を合わせた善の目からは
熱情とも怒りとも思える
赤いような──
熱っぽい視線が、注がれる。
その視線を見ただけで
椿は自分の中から
涙が溢れそうなほどの
込み上げる恋情を感じた。
「………離して、ください。」
「それはできねェ。」
「っ……善様、やめてください…
私はもう、喜一さんと婚約を…!」
「うるせェよ。
そんなもん、もう破棄に決まってんだろ。」
(っ………!?)
椿は善の言葉に
目を見開いて、驚く。
───破棄だなんて、そんな…。
「そ、んな……っ。」
「………あんな文読んで
お前を喜一に渡すわけねェだろ。」
「───っ!」
『あんな文』
その言葉を聞いて
椿は思わず顔を赤くして
善から視線を逸らした。
……そうだ、自分の気持ちはもう
彼にはバレてしまっている。
どうして、こんなことになったのか…
その経緯も何もかも全て───。
「……"俺のために"消える……
それが、お前の考えだったな。」
「………。」
静かに善が
椿にそう尋ねる。
椿は黙ったまま
逸らしていた視線を、下へ下げる。
「……お前はいいよなァ?
自分で整理つけて決めたんだからよ。」
善はそう言いながら
皮肉を込めた笑みを フッ…とこぼす。
覚悟決めて
俺のそばを離れるって
自分で決めたんだ──。
「……でもな、俺ァそうじゃねェ。」
善がトゲのこもった言葉を
椿に向ける。
(………俺は)
お前を守るために
自分で目覚めたんだ。
───なのに
「………許可した覚えも、覚悟を決めてたわけでもねェんだよ。」
勝手にそばを離れると告げられ
挙げ句の果てには喜一と婚約───。
目覚めてすぐにそれを告げられた
俺の気持ち…
お前ェには、わかんねェだろうな。