不器用な愛を刻む
『中途半端な愛なんざ』
「………仕事だァ?」
「はい。
雇ってくれるお茶屋さんがあったんです。」
───それから間もなく
椿は以前のように
あの店へと戻っていた。
喜一の計らいもあって
持って行った家具や荷物は
役人も手伝ってここへ戻した。
そんな生活を送っていたある日
朝食を食べながら
善は眉間にシワを寄せながら
椿の話を聞いていた。
「お給料も良いですし、
やろうと思ってるんです。」
「……する必要ねェだろ。」
「いえ、そんなわけにはいきません。
善様がお仕事やめた分
今度は、私が働きます。」
───そう
以前と変わったことと言えば、コレだ。
ある日……刺客の屋敷に
善が椿を助けに行った事件以来
善はかねてから考えていたように
あの極秘の依頼の仕事を
きっぱりとやめたのだ。
仕事をやめたところで
有り余るほどの財産を手にしている善は
生活に困ることなく
これまで椿と過ごしてきた。
「物騒な町中に…
お前1人放り出すなんて、考えられねェ。」
「そんな物騒じゃありませんよ。
それに、働くのは夕方までですから。」
すぐそこですし
暗くなる前には帰れます、と
善を納得する椿。
一緒に住んでいると言えど、
まだ籍を入れてない2人。
そんな中で善に全て甘えるなんて、と
椿は善の財産で生活していくことに
反対していたのだ。
……そうは言いながらも
善は顔色一つ変えず、
椿の案を却下する。