不器用な愛を刻む
『覚悟を決めなお嬢さん』
彼の仕事をきちんと椿が理解したのは
それから間も無くのことだった。
夜、営業を開始してすぐに
店にお客が入ってきた。
-----見たことのある黒い西洋の服。
それこそ例の
"お役人"様だった。
彼らはいつも
同じように神妙な顔をして
ここへやってきては
善と2人で話をつけてくる。
-----善が役人から依頼を受けているのを
目の当たりにした椿は
それと同時に
理由はどうであれ
善は『人殺し』を犯す人間なのだとも
実感することになった。
「今日も夜分に失礼。
また"仕事"を依頼したいんだけど…どうかな?」
-------そして今日も
1人の役人が店にやってきた。
入ってきたのは若い男。
かぶっていた黒のシルクハットを
頭から外し、手に持った。
善とは正反対の
真っ黒で少し長めの癖のある髪に
落ち着いた穏やかな振る舞いを見ると
さすがは役人、
真面目そうな感じがする。
そんな彼が
優しそうな笑みを浮かべながら
真っ直ぐに善を見て砕けた口調でそう言うのを見て
椿は
彼と善が親しい間柄というのをすぐに察した。