不器用な愛を刻む
「フッ……全く、人遣いが荒ェ連中だな。
俺に頼らずともお前が出ればいいだろうが…なぁ喜一(キイチ)?」
いつもと同じく
妖美な低い声に、小さく笑みを浮かべながら
その男の名を呼んで
話し返す善。
喜一と呼ばれた男も
また同じように小さく笑みを浮かべながら
善を見て、静かに告げる。
「…残念ながら、俺は戦いに出してもらえないみたいでね。」
「ハッ、さすが長のお気に入りだなァ。
汚い役目なんざ負わせなくねぇもんな。」
男の言葉に
自嘲気味の笑いをこぼしながら
善は皮肉を返した。
そこへ
椿は気まずい雰囲気の中、
静かに客人と主人にお茶を出す。
そうしてやっと男の視線が彼女へいき、
男は少し目を丸くしながらも
すぐに優しい笑みを浮かべて
善と椿に尋ねる。
「いつの間に新入りを入れんたんだ?
…こりゃまた可愛らしいお嬢さんだね。」
さすがは
女を見る目のある善の選んだ娘(こ)だ。
男はそう言って
椿に少々顔を近づけた。