不器用な愛を刻む
そう言った椿の声が
2人しかいない空間に
響き渡るように
善の頭で
何度も復唱され
少しの間、思考が止まる。
(……接吻したフリ、だと…?)
善は困惑しながら
眉を寄せて、黙り続ける。
「きっと、私が落ち込んでいたので
景次さんが気をきかせるつもりで
あんなことを……。」
「…気をきかせるだァ…?」
(……俺に嫉妬させようってか…?)
それ以外の目的はないだろうと
善は考えて
さらに眉を寄せる。
───そうだとすれば
自分はまんまと
あの男にしてやられたということになる。
(………チッ、どいつもこいつも…。)
喜一といい、景次といい、
2度も誰かの思惑に
まんまとハマって
椿に嫉妬をぶつけるハメになるとは。
善は全ての事実を察して
イライラと怒りを募らせた。
しかしその代わり
先ほどまでの黒い感情は
スッ…と
消えていっていた。