不器用な愛を刻む








(今日は善様の好きな物を作ろうかな…。)








買い物に出た椿は

八百屋を目指しながら
そんなことを考えて、無意識に笑みを浮かべる。






昨日、善と仲直りをして
きちんと結ばれた夜を過ごし

本人も無自覚なうちに
充実感を感じていた。









椿はささっと買い物を済ませて

早く善の待つ
あの家へ帰ろう、と


足を早める。









───その時









ドンッ!と


ふいに肩を突き飛ばされるように
椿の体に誰かの肩が当たる。










「ってェな…あ?嬢ちゃんかァ?」

「!」









明らかに椿の方が
威力を受けているというのに


ぶつかってきた大柄な男は

肩をさすりながら、
側にいる椿を見下ろす。







ビクッ!と



思わずその声と視線に
怯えてしまう椿。









そんな彼女の様子を見て

味をしめたのか、
男は椿を見下ろしながら

下品な笑みを向け、絡んでくる。










「謝りもせず呆然として
失礼じゃねェのかい?あん?」

「っ………ご、ごめんなさ…。」

「あぁ?聞こえねェっつんだよ!」









そう言うと


グイッ──!と椿の腕を掴み引き寄せ




その下品な顔を近づけて
ニヤニヤと笑みを向ける。









「落とし前つけてもらおうかァ?
んー?嬢ちゃーん…。」

「…ぁ……あ、あの…っ。」










恐怖で、声が上手く出ずに
小さく震える椿。







男はそのまま



椿を連れて、
どこかへ移動しようと歩き始めた















───その時

























「その汚ねェ体で俺の女に触るたァ…
大した根性だぜ 旦那ァ。」








「───!!」

「……あぁ?」










聞き覚えのある




妖美な低い声が

その場に響き渡る。







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