不器用な愛を刻む
咄嗟に振り返った椿の
視線の先にいたのは───
「ぜ…善様…っ!」
「ククッ…それともまさか、
早速浮気なんて言わねェよなァ、椿?」
家の窓辺から見守っていた最中に
絡まれる彼女を見て
飛んでやってきた、善だった。
妖しい笑みを浮かべたまま
椿の腕を掴む
大柄な男へと近づいて行く。
男は
自分より小柄な善に対して
挑戦的に口角を上げて
舐めた口調で、食ってかかる。
「ひよっ子野郎が大口叩くんじゃねェよ。
返して欲しけりゃ奪ってみ───」
───奪ってみろ
そう言いかけた大柄な男の喉元に
いつの間に動いたのか、
一瞬の動きで
善が 尖る簪を突きつけた。
プスッ…と、
少しだけ尖る先端を
喉元に突き刺せば
善は ククッ、と喉で笑いながら
男の耳元に口を寄せて、
妖美に囁く。
「───そのまま椿の腕を離せ。
じゃねェとコレで喉に穴開けるぜ?旦那。」
それが嫌なら
大人しく従うんだなァ。
そう言った善の声に
男は青ざめた顔で
冷や汗をかきながら
渋々…椿の腕を離す。
「チッ……覚えてろ!!」
善が男から離れ、
椿の体を引き寄せると
男は顔を悔しさに歪めて
そのまま場を立ち去った。
それを確認してから
善が椿を静かに見下ろす。
「…変な輩に絡まれないようにって
忠告したのになァ?」
「ご、ごめんなさい……。
本当にありがとうございました…っ。」
「ククッ…これだから目ェ離しておけねェんだよ。」
椿を少し責める口調ではあるが
どこか楽しそうに口角をあげる、善。
善は彼女の体に手を回して
顔を覗き込むように
体を屈めながら
優しく告げる。
「…で、嬢さん?
買い物の続きにでも行くか?」
「っ……は、はい…!」
そんな彼に
椿は驚きながらも
嬉しさを感じて
小さく笑みを浮かべて、そう答えた。