不器用な愛を刻む
───グイッ と
善が、前を進む椿の肩をつかんで
無理矢理振り向かせる。
「昨日こいつに会ったなんて
俺ァ聞いてねぇぞ、椿。」
「だ…だってそれは、昨日善様が…。」
善の言葉に
椿がそう答えようとすると
椿は昨日の出来事を思い出し、
思わず顔を赤くした。
(………!)
善は
そんな椿の反応を見て
言わんとすることを 察した。
そしてニヤッと
意地悪に口角を上げて
椿の耳元に唇を寄せて
小さく 囁く。
「ククッ……あぁ、そうだったな。
あの後は激しく愛し合ったんだったな…。」
「っ……ぜ、善様!」
「んー?何だよ。」
やらしい言い方で
囁いてくる善に対して
椿が顔を赤くしながら
抗議しようと名前を呼ぶも
彼は余裕の笑みでそれを受け止め
逆に詰めようように寄ってくる。
そんな2人の様子を見ながら
呆れたようにクスクス笑って
喜一が声を発する。
「ねぇ、俺がいるの忘れてない?」
「あ…ご、ごめんなさい!
ほら、善様離れて…っ!」
「あぁ?
お前が勝手に来ただけだろうが。」
俺らが何しようと勝手だろ、と
雰囲気を壊された善が
少々不機嫌気味に 喜一へ告げる。
しかしそんな言葉で
怯む喜一でもなく、
爽やかな笑みを浮かべたまま
気にせず続ける。
「お客様はもてなすものだよ。
少しくらい、良いじゃないの。」
「…チッ。」
そう言う喜一に
善は舌打ちを打ちながらも、
仕方ない といった様子で
椿から離れ
いつもの長椅子へと腰掛ける。
その様子を見て
椿は少しホッとしながら
お茶の用意を始めた。