不器用な愛を刻む
椿がお茶やお菓子の準備をしている間
その姿を少し遠目に見ながら
喜一が善に
優しく微笑みながら言う。
「…仕事やめて、今は茶屋で接客してるんだって?」
「まぁな。
…あいつが働きてェって言うからよ。」
「へぇ、椿ちゃんも珍しいね。
働かなくても十分に暮らせるのに。」
「俺もそう言ったんだが、
言うこと聞かなくてなァ。」
俺の金であって
自分のものじゃない、って
あいつらしいがよォ…
そう困ったように言いながら
どこか愉快そうに
笑みを浮かべる善に
喜一もそれを見て 笑みを浮かべた。
「…なんか、嬉しそうだね?」
「あ?…まぁ、かもな。」
「うわ、珍しく素直。」
正直に気持ちを認めた善に
喜一は少し驚きながらも
面白そうに笑みを深めて
彼にそう言う。
善は
こちらへやってくる椿を眺めながら
そんな喜一に向かって 静かに告げる。
「不思議なもんでな…
あいつがいるのといないのとじゃァ
全然、世界が違うんだよ。」
善がそう言って
ふと、優しく微笑んだ時に
ちょうど椿がこちらに来て
お茶とお菓子を運んできた。
「お待たせしました。
…?どうかしましたか、善様?」
「…いや…別に何もねェ。」
椿が机の上に
それらを置くと
ふと自分に注がれる
善からの視線に
不思議そうに、そう尋ねる。
善の答えに
椿が そうですか? と言って
そのまま台所へと戻ろうとした
その時
───グイッ!
「っ……!?」
不意に
善から 腕を引かれた。