不器用な愛を刻む
一方、喜一の方では---
(……驚いたな…。)
喜一は夜道を歩きながら、
先ほどのことを思い出していた。
…善の店に新入りが入っていた。
それも…女の娘。
今まで1度もそんなことがあった試しがないというより、
そもそも---
善と知り合ってから今日まで以来
彼が他人の、しかも女を…
そばに置いていたことなど1度もない。
…彼は誰も寄せ付けない雰囲気を
自ら放っていたから。
(…俺でも、彼と話せるようになったのは随分と後だったのに…。)
そんなことを考えながら
喜一はクスッと怪しい笑みを浮かべながら
足を止めて、善の店を振り返る。
「…覚悟を決めなお嬢さん。」
もうきっと
彼から逃れられないよ。
そう独り言をこぼして
また笑みを深めながら
彼は前を向き直って、再び歩き始める。
(……あの"鬼"が…ねぇ…。)
---こりゃあ面白い話だよ。
そんな風に思いながら
喜一は愉快そうに夜の闇に消えていった。