不器用な愛を刻む
「嬢さん知り合いかい?
旦那、この可愛い恋人にプレゼントなんてどうですかい。」
この子にきっと似合いますぜ!
そんな商売文句を喜一に向ける店主に、
椿は慌てて口を開く。
「ち、違…!恋人じゃありません!」
「そうなのかい?お似合いだぜお2人さん。」
否定するも
おだてがてら店主は調子良く2人にそう言って
ニヤニヤとした視線を送る。
「あははっ。
すぐに否定されると、少し寂しいなぁ。」
「あっ…ご、ごめんなさい喜一さん。」
優しく笑う喜一に椿は慌ててそう謝る。
…でも、冗談でも恋人に間違われたくなかったのだ。
-----自分の心には、すでに好い人がいるから。
(……善様…。)
椿が少し視線を下げて
切なげに心でそう彼の名前を呼んでいると
「じゃあ僕から彼女に
その髪留めを、プレゼントしようかな。」
「-------え…?」
不意に喜一が
柔らかい笑みを浮かべたまま
店主にそう告げた。
その声を聞いて椿は驚き
彼を見上げる。
「へい、まいどあり!」
「え、ちょ…喜一さん?!
いいですそんな---頂けません!」
必死に店主と喜一を止めるものの
契約は成立してしまい
喜一は髪留めを受け取って
代金を支払う。
そしてそのまま
椿は喜一に手を引かれて、
その場から去ってしまった。