不器用な愛を刻む
中に入って
出されたお茶を眺めながら
気まずく黙り込む椿。
喜一の方はというと
さほど緊張も気も張っていないのか
割と自然体でいる様子だった。
「椿ちゃんは買い物しに町へ?」
「あ…はい。」
「そう。
その様子だと…善はまだ帰ってないみたいだね。」
-------ドキッ
喜一にそう言われ、
椿は心の中の弱いな部分を
グッ…と押されるような感じがした。
「……不安?」
喜一にそう尋ねられ
椿がゆっくり視線をあげると
目の前には
感情の読めない穏やかな笑みを浮かべた
喜一と目が合った。
椿はその質問に、ゆっくりと頷く。
「だろうね。そんな切なそうな表情してるくらいだもんね。」
「………。」
「…でも、心配しなくても
あいつは必ず帰ってくるよ。」
椿はその言葉に
思わず瞳を揺らして、彼を見た。
…自分も思っていることを
改めて他人から、それも彼の友人から
言われて少しでも…安心したかったのだ。
大丈夫だと、確信したかった。
「…そうですよね。大丈夫、ですよね。」
「あぁ。きっと今夜には帰ってくるさ。」
だから、そんな顔しちゃダメだよ。
そう優しく言われて
椿は不安気な目をしながらも
小さく笑みを浮かべた。
そうだ。
善が帰って来た時に
心配なんかさせてはいけない。
そう思って
椿は少し気力を取り戻して
出されたお茶を飲んだ。
「…喜一さんは、何か用で外に?」
「まぁね。
町のパトロールってとこかな。」
喜一は椿にそう答えると
また柔らかく口角を上げた。
どうやら彼は仕事中のようで
その途中で椿を見かけたらしい。
(お役人様もお忙しいなぁ…。)
…自分は善のお店にいながら
何の役にも立っていないなぁ…と
椿は改めて思いながら
小さく息を吐いた。