不器用な愛を刻む
『まさか君も』
…次の日。
善はいつものように
店にある長椅子の上で目を覚ました。
すでに日は登り、窓から日差しが差し込んでいる。
(……この匂い…。)
近くでする小さな物音と、
鼻をかすめるこの匂いからして
大方予想はつく。
「-----あ、善様お目覚めですか?」
そうしてその予想は当たり
当人から声を掛けられ
善はそちらへ静かに視線を寄越した。
視線の先に立っているのは---椿だ。
「ちょうど朝ごはん出来ましたよ。
…腕の調子はどうですか?」
まだやっぱり痛みますよね…?
と
椿は痛々しげに眉を寄せて
善のそばに駆け寄ってくる。
心配のし過ぎだ と善は思いながらも
主人に駆け寄る忠実な犬のような
椿の姿に、思わずフッと笑みがこぼれる。
「痛くねぇよ。
…昨日のお前の手当てのおかげでな。」
そう言っていつもの笑みを
椿に向けると
椿は少々頬を赤くしながらも
安心したように小さく笑って
「良かった…。」と呟く。
そして椿は1度 善から離れると、
すぐに
料理を持ってこちらに戻ってきた。
「はい、朝ごはんです。
召し上がってください。」
そう言って差し出された朝食を
善は長椅子から体を起こし、
食べ始める。
その様子を
いつものように嬉しそうな顔で
椿は眺めていた。