不器用な愛を刻む
「今日は、どこかお出かけになるんですか?」
食べている最中に
椿がそう善に尋ねる。
善はその声に食べながら視線を向け
静かに食器を置いて
静かに返す。
「…役所に少し顔を出す。
今回の仕事の報告をしに---な。」
善がそう言い終える途中
少々顔色を曇らせた気がして
椿はそれに少し不安を覚えた。
今まで仕事の報告は
号外を役人が受け取った時点で
達成が知らされるため
わざわざ行かずとも
報酬がこちらに入ってくるのがほとんどだったからだ。
---今回はまだ噂されていない
罪人の依頼だったのだろうか?
それで号外が出ないから
自ら足を運んで報告を…?
椿が色んな思考を巡らせている間に
善は朝食を食べ終えて、
長椅子から腰を上げる。
「…お前は今日、どこか行くのか。」
「いえ…特に何も考えていません。」
「…そうか。」
善は椿の答えを聞くと
長椅子にかけていた着物の羽織りを
手にとって、肩からかける。
そしていつものように
煙管を取り出して
それに火をつける。
「じゃあ行ってくるが……
もし出掛けるってんなら、
くれぐれも変な輩に捕まらないようにしろよ?」
そばに俺ァいねぇからな。
いつもの妖しい笑みのまま
椿にそう告げて
頭を下げて見送ると
善はそのまま店の玄関から出て行った。
(…今日も、善様が無事でありますように。)
椿は善の姿を目で追いかけながら
心でそう ささやかに願うのだった。