不器用な愛を刻む
---それから善は家を出て
町中を歩きながら
目的の場所である 役所へと向かった。
相変わらず賑わう町で
色んな人々とすれ違いながら
逆流するように
1人歩き進む。
(……平和ボケしてやがる…。)
自分の横を通り過ぎて行く人達
家族連れ、婦人、貴族…
-----その誰もが笑顔で
騒がしくはしゃぎ喋りながら
街中を歩く姿は
まるでこの世の"苦しみ"というものを
味わったことのない…
呑気な姿のように
善には見えた。
「…………アイツも本当なら……」
-----ここにいるはずだったんだろうに。
善はそう最後までは口から発さず
心の中に残したまま
その人を思い浮かべる。
そして
静かに前を向いて
役所のある方へと 進んだ---。