不器用な愛を刻む
喜一の言葉に
善は静かに酒を喉に通しながら
黙って耳を傾けている。
-----しかし何だか少しだけ
機嫌が悪くなっているような様子だった。
「--------。」
そんな彼の様子を
喜一は見逃さなかった。
そして喜一は
少しだけ黙ってから
すぐに口角をあげながら
善に再度、あの時のことについて
口に出した。
「そういえば椿ちゃん、その時あげた髪留めどうしてるのかなぁ。」
「……髪留め?」
-----ピクッ
と
善がふと眉を動かして、
箸を持っていた手を止める。
そして喜一にスッと横目の視線を流して
声に耳を傾ける。
喜一もそれを確認して
再度善にそう告げる。
「あぁ。僕から彼女にプレゼントしたんだ。」
「………。」
「少しでも良いから 元気が出るんじゃないかと思ってさ。」
そう 喜一の言葉を聞くと
善は少し黙ってから
トンッと箸を置いて
-----ガタッ!と
勢い良く椅子から立ち上がった。
「…善?」
「気が変わった。帰る。
勘定はお前ェに任せた。」
じゃあな。
そう鋭い不機嫌な声で
喜一に告げると
善は少し怒りを込めた手で
強く---店の戸を開けて出て行った。
その音にビクッとする
周りの客たちと同様に
喜一はその場で少し驚いたように
目を軽く見開いて
善の出て行った戸の方を眺めていた。
「……まさか君も…彼女を…?」
そう呟いた喜一は
最初は驚いて固まっていたものの---
少ししてから
こみ上げてくる笑いに堪えきれず
クククッ…!と声を上げる。
「"鬼" が "少女"を愛する-----か。」
やっぱりこりゃ
面白い話だねぇ…?
と
喜一は心の中で呟くのだった。