不器用な愛を刻む
「…そんなに後ろ歩くんじゃねェよ。」
「え?……っ!」
突然振り返って
善がそう言ったかと思うと
グイッ、と腕を引かれて
善の隣へと導かれる。
「俺の横歩く癖つけとけよ?
お前から目ェ離すと、危ねぇからなァ。」
変な輩に絡まれねェためにもな。
そう言って善は
椿の顔を覗き込むようにして
妖美な笑みを椿に向けると
たちまち、椿の顔が赤く染まる。
「ククッ……
初心(ウブ)だなァ、お前ェは。」
「っ…や、やめてください…。」
善の過ごし楽しそうな声に
椿は恥ずかしくなって
思わずそう善に言葉を向ける。
クスクス笑う善の隣を歩きながら
椿は視線を逸らしながら
火照る顔に手を当てた。
そんな椿を
隣で善が見下ろしながら
上機嫌に 妖しく口角を上げる。
「…朝飯はあそこで食うか。」
「あ…はい。そうしましょう。」
善の示すお店を見て
椿がそう言うと
2人はそのお店の扉を開けて
中にお邪魔する。
朝と言っても
やはりすでに中は人で賑わっていた。
2人は空いていた席に向かい合って座り、
品書きを眺めながら
黙って頼むものを考える。
「………お前、何にするんだ?」
「えっと…私はコレにしようかと…。」
椿の指差した品名を見ると
善は黙ってそれを了解して
店員にアイコンタクトを取る。
「これを2つ。」
「…へ……。」
その言葉を聞いて
店員は笑顔でメモを取って
そのまま歩いて行ってしまう。
注文の様子を見て
椿は思わず目を丸くして
善を見ていた。
(…私と…同じものを…。)
たったそれだけなのに
何だか椿は少し嬉しくて
薄く、頬を赤く染めた。