不器用な愛を刻む
「-----ご馳走様でした!」
「…よし。」
手を揃えてから
箸を置いた椿を見て
善が軽く勘定を済ませる。
そして椿を連れて
店外へと出た。
「わぁ……もう人で一杯ですね。」
「…そうだな。
……はぐれんなよ?」
善はそう言って
いつもの笑みを浮かべながら
椿を見下ろせば
椿は少し頬を染めながらも
普通な態度で、「はい。」と答える。
それを聞くと
善は前を向いて 町中を歩き出す。
その隣を歩きながら
椿は通るお店を各々見ていた。
(善様はあんまりころころと
服装を変えたりはしないけど…)
あんまり興味がないのかな?
と
椿は町にならぶ呉服屋を眺めながら
考えたりしていた。
それに対して-----
(…椿はあんまり我儘言わねェが…)
本当は女娘(おんな)らしく
色々欲しいモンくらいあるんじゃねェか?
と
善も善で椿のことを考えていた。
それに…
『そういえば椿ちゃん、その時あげた髪留めどうしてるのかなぁ。』
-----喜一の言葉がやはり
善には少し応えていた。
何故 1日、2日で知り合った男が
椿の欲しいモンを与える?
本来その役目は---自分のはずなのに。
そう改めて思い返しながら
善は歩きながら少々眉間にシワを寄せる。
そんな善の思いなど知らず
椿はただ楽しそうに
ゆっくりと町中を堪能していた。