不器用な愛を刻む





すると店主は驚きながらも、
ニヤニヤとしながら

2人を見て 商品を勧めてくる。








「旦那もこの子に贈り物なんてどうです?
じゃないとこの前の旦那に取られるかもしれませんぜぃ?」

「………喜一にも、ここで買ってもらったのか?」








店主の誘い文句を静かに聞いて、
善が 低い声で 椿にそう尋ねる。



椿は、昨日そのことで善が怒っているのを気にして

少し迷いながらも
小さく コクッ、と頷く。








「---------そうか。」








善は椿の反応に
そう一言答えると、


何を思いついたのか

僅かにではあるが、小さく口角を上げて


グイッ---と椿の腕を引っ張った。








「っ…!」

「ククッ……悪いが…
他の男と同じ店で買うのは嫌でなァ。
またの機会にするぜ。」








横目で店主を見ながら
そう妖しく笑って言えば


店主は少しポカン…とした顔をしながらも







「そりゃ残念だ。
嬢ちゃん、また来なっ!」







と、すぐに善の意図を察したのか

普段の笑顔をニカッと浮かべて
2人を見送った。




椿は引っ張られながらも

ペコっと一礼して、
善に連れて行かれるまま ついて行く。








「あ、あの…、善様…?」

「…髪留めは、お前がねだったのか?」







(…え……?)








声を掛けると
善にそんなことを聞かれ

椿は一瞬ポカンとした。





しかしすぐに首を振って
それを否定する。







「違いますよ。
私が前に、あのお店の方に捕まっていたのをたまたま喜一さんが見かけて
助けてくださったんです。」







その時に、あの髪留めを喜一さんにいただいて…。






と、椿が説明すると


善は 予想と違う答えに
一瞬目を丸くして、椿を見下ろす。





しかし
すぐに上機嫌そうに口角を上げ、

ククッ、と喉を鳴らしながら笑った。








(…喜一の野郎、試しやがったな?)








「ククッ…ったく、
ムカつく野郎だなァ…あいつァ。」







独り言のようにそう言って

善は笑いながら
妖美な笑みを浮かべる。





椿はそんな善を
不思議そうに見上げていた。







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