不器用な愛を刻む
そんな椿の腕を引っ張りながら
善は足早に
町中を歩き進んで行く。
-----一体どこに行くつもりなのだろうか?
検討もつかないまま
椿は善についていくと
彼は ある店の前で足を止めた。
(……呉服、屋…?)
善が立ち止まったのは
先ほど通り過ぎた呉服屋より
比ではない位
高級そうな 立派な呉服屋だった。
椿たちを見ると
中から女将が上品な笑顔で出てきて
声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。
何かお探しの物でも御座いますか?」
そう尋ねられて
椿は思わず首を振って
善を連れて引き返そうとするも
善はそこから動く様子がない。
(------善様…?)
どうしたのだろう、と
不思議に思っていれば
女将に対して
善がこう口を開いた。
「───この店一番の簪をくれ。」
(---------っ?!)
椿はその声を聞いて
思わず目を見開いた。
こんな高級なお店の
一番高い簪を買おうだなんて---。
一体何を考えているのか
と、驚く椿。
そんな彼女の隣で
善は平然としながら
女将から簪を受け取る。
「……黒と金、か。」
「はい。
国でも有数の腕を持つ職人に
一つだけ、と作って頂いた物で御座います。」
女将の言葉を聞きながら
ジッとその簪を眺める善。
そしてフイッと隣の椿を見て
それから小さく 口角を上げた。
「──お前ェに合いそうだな、椿。」
「っ、え…?!」
まさかそれを自分に買おうとでもしているのだろうか、と
椿は目を見開きながら
善の目を見つめ返す。