不器用な愛を刻む
「わ、私にはそんな高価な物
似合うわけありません…!」
「んなことねェさ。
…決めた、これを買おう。」
「っ、善様…?!」
善は椿の声を無視して
女将と購入の契約を交わす。
椿は唖然としてから 慌てたが、
善はすでに御代を支払っていた。
「有難う御座いました。
またご贔屓にして下さいませ。」
「…ほらよ。椿、付けてみろ。」
一礼して私たちを見送った女将さんに背を向けて、歩き出す2人。
善は椿にその簪を手渡しながら
そう彼女に言った。
「っ…あ、あの本当にそんな…。」
「何だァ?
俺がくれてやったモンはいらねぇってか?」
「っ、そ、そういうわけじゃ---!」
「なら、付けてくれよ。」
ん?
と
いつもの笑みを浮かべながら
椿の顔を覗き込む善。
その彼の仕草に不意に鼓動を鳴らしながら
椿はそれをしぶしぶ受け取って
髪に刺す。
綺麗な簪の飾りが揺れて
椿にぴったり似合っている。
善はそれを見ると
無意識に 更に口角が上げた。
「…似合ってんじゃねぇか。」
そう満足そうに笑って
また前を向いて歩き出す善。
椿はその言葉に嬉しさを感じつつ
恥ずかしさと照れのせいで
顔を赤くした。
(……善様、きっと今日は機嫌が良いんだなぁ…。)
だから自分に
こんな風に贈り物をしてくれたんだ。
しかも、素敵な言葉付きで。
「…ありがとうございます。」
そう椿は思いながら
小走りで先を歩く善を追いかけ
隣を歩く。