不器用な愛を刻む
「ぜ、善様…!?」
「ん?
なんだ、美味くなかったのか?」
「そ、そういうことじゃなくて…!」
あわあわと慌てる椿と反対に
余裕な態度で
妖しい笑みを向ける善。
その笑みに何も言えなくなってしまい
椿は、ドク ドクと鳴る鼓動を感じながら
視線を逸らした。
「ククッ……顔、赤ェぞ椿。」
「っ…き、気のせいです!」
そんな椿の様子を見ながら
ククッ、と喉で笑う善が
からかい混じりにそう告げる。
図星をつかれながらも
首を振りながら誤魔化そうとする椿に
善はまたも笑みを深めた。
(……これが、愛おしいってモンか。)
今まで意識したことのなかった
───『幸せ』。
それを実感して
嬉しさを覚える反面、
自分に驚く善。
まさか自分に
こんな感情が沸き起こるなんて───。
(……俺にも、
人の心ってモンがあったとはなァ…。)
"鬼"も "ただの人間"に堕ちたな。
そう思いながらも
どこか楽しそうに
笑みを浮かべる善。
隣を歩く椿を見下ろしながら
愉快そうに煙管を取り出し、
それを吸い始める。
「……やっぱり、正解だった。」
「え?…何がですか??」
独り言のように呟いた善の言葉を
椿は不思議そうに尋ね返す。
それに対して善は
妖しい笑みを椿に向けながら
フッといった笑い声をこぼす。
「───全部だ。」
お前と出会った時から
してきたこと全て───。
心でそう呟きながら
意味の分かっていない様子の椿を見下ろした。