不器用な愛を刻む
「---っ、はぁ…はぁ…!」
深夜の町中。
誰もいない真っ暗な夜道を
息を切らせて走る。
途中足を止め
真っ黒な正装に身を包んでいた喜一が
その上着を脱ぐ。
(っ…頼む、間に合ってくれ…!!)
そう思いながら
再び走り出すと
喜一は前方に
あの"店"があるのを確認した。
(っ…着いた…。)
店の前に着くと
喜一は肩で息をしながら
そこに立ち止まる。
…当たり前だが、店の中は暗い。
これで
彼らが静かに寝ていてくれたらいいのだが---。
そんなことを考えながら
喜一は店の扉を開けて
中に足を踏み入れる。
(……誰も、いない…?)
いつもなら
窓辺にあるソファの上で
足を組みながら睡眠を取る善の姿が
そこにはあるのに。
何故かこの日に限って
その姿がなかった。
それにも何となく嫌な気を覚えて
喜一は少し眉を寄せた。