不器用な愛を刻む
「っ…そんな…!」
「クククッ。
今頃、あの男…慌ててこっちに向かってると思うぞ?」
お前を探してな---。
そう言って笑い声を漏らす目の前の男に
椿は鋭い視線を向けて、睨む。
(こんな卑怯な手口…酷い。)
きっとこの男以外にも
仲間は何人もいるはず。
そこの中に1人
善を誘き出す作戦なのか---。
(この前だってあんな怪我を負ったばかりなのに…!)
まだ完治していない
治りかけの傷を負ったまま
仕事続きの彼をここに呼ぶことは
不利でしかないように椿は思った。
(っ……嫌…!)
善様、来ないで───!!
椿はそう強く願った。
ギュッと目をつぶり
苦しそうな顔をする彼女の様子を
男は静かに 見下ろす。
「……あの男を好いているのか?」
「っ……!」
「……フンッ、随分悪趣味な女だ。」
---あんな"バケモノ"を愛すなんて。
そう言った男の声に
椿は静かに顔を上げた。
「…善様はバケモノなんかじゃありません。」
「………。」
「あの方は……優しい素敵な方です。」
-----私に、生きろと言ってくれた。
あの夜のことを思い出しながら
椿は男にそう言う。
「……どうだかな。」
目の前の男は小さくそう言うと
興味なさそうに椿から離れて
部屋を出て行った。
(………善様…。)
椿は窓から差し込む月明かりを辿って
外の月を眺める。
───どうか、ここへ来ないで。
静かに、そう願いながら。