不器用な愛を刻む
「っ、椿ちゃん…!」
「…!! 喜一さん…!?」
喜一の呼びかけに
怯えていた椿は
顔を上げて彼の顔をはっきりと見た。
(…今の銃声は、喜一さんが…?)
少し混乱している椿を置いて
喜一は鍵のかかった扉に
銃口を向けて
1度だけ、撃った。
そしてそれによって開くようになった扉から
中に入り、椿の無事を確認する。
「怪我はない?
どこか痛むところとかある?」
「い、いえ大丈夫です。
あ…あの、喜一さん!善様は…!」
彼は無事なのか───。
そう喜一に尋ねようとした椿だったが
突如聞こえた危ない音に
声がかき消される。
───ドダダダッ!!パンッ!ドガッ!
「っ、椿ちゃん奥へ!!」
「っ…今のは…?!」
何かが落ちてくる音と
1発の銃声。
そして何かがどこかへぶつかる音。
誰かがここへ来たのは間違いないが
暗いため、姿がよく確認できない。
喜一は扉から出て通路に出ると
警戒態勢を取って
銃口を前へ向けて構える。
「───っ。」
…カツ、カツ、カツ…。
ゆっくりと近づいてくる音と
たまに反射で
こちらに光が向けられる。
───あれは、刀の刃?
何となくそんな予想をしながら
息を殺しながら
相手が見える位置に来るまで待つ。
すると───
「……そこにいるのは誰だ…?
ククッ…また死に損ないかァ…?」
「………!!」
この喋り方、声…
口調からしてもすぐに誰だかわかった。
「っ、善…!!」
「──!…喜一…?」
月明かりが差し込む場所に姿を見せたのは
(っ………血塗れだな…。)
返り血を全身に浴びた
妖美な男の姿───。