不器用な愛を刻む
善は椿の腕を取って
牢獄のような部屋から
彼女を連れ出す。
「…喜一、行くぞ。」
「……あぁ。」
善は喜一にも合図を送り
来た道を戻っていく。
善が先頭を歩き
喜一は背後を守るように
椿の後ろを歩く。
(……臭ェな…。)
「…椿ちゃん、あんまり下は見ちゃダメだよ。」
「…は、はい……。」
血の臭いが蔓延しているこの空間。
この臭いだけでも
椿には刺激が強いはず---。
ゴロゴロと転がる死体の山なんて
この子にはなるべく見せたくない。
喜一のそんな思いから
そんな言葉を向けたのだった。
椿は指示に従うように
少し視線を上げて歩いていた。
───壁にも飛んだ返り血。
それもなるべく見ないように
たまに目も瞑る。
「…そこからは階段だ。気をつけろよ。」
「あ…はい…。」
そうしてゆっくり上っていく。
暗い地下からやっと抜け出して
地上へと上がってきた。
しかし
地上は地上で、
下よりも残酷な光景が広がっていた。
「っ……?!」
椿は
思わずそのグロテスクな光景を
目にしてしまい
思わず息を飲んで
固まった。
「…こっからは死体の山だ。
…椿、喜一、裏から出るぞ。」
「…そうだね…。」
善と喜一は冷静にそう話しながら
出口となる裏口の方向へと体を向けた。
椿もその声にハッとして
彼らの後ろをついて歩く。
だが
明るい場所に出て
椿は今更気付いたのだ。
(───っ?)
善の足元に
血が垂れていることに。