不器用な愛を刻む
「───。」
──本当に、一瞬。
聞こえた銃声の次の瞬間には
喜一さんが敵を撃っていて。
目の前のあの男は
ついにトドメを刺され、後ろへと倒れた。
それを確認してから
喜一さんが慌てて
こちらへと向かってくる。
焦った表情で
こちらに何かを叫んでいるけれど
何を言っているのか、聞こえない。
(………。)
伝わってくる、熱い液体。
生暖かくて
それは静かに
私の着物に染み込んでいく。
──私の体にのしかかった
この重みは───何?
「………椿。」
耳元で、そう私の名前を呼ぶ声がする。
返事をしたいのに 声が出なくて。
その代わりに
どんどん涙が溢れてきて。
拭えもしないその涙を流しながら
私はただ呆然と
その重みに手を回す。
「…フッ……無事…みてェだなァ…?」
弱々しく笑みをこぼして
私の体にもたれかかる彼の背中に
腕を回せば
ドクドクと溢れ出すソレに
手が濡れるのがわかる。
「…善、様……?」
────嗚呼 誰か
これは悪夢だと、誰か言って。
「善!!
っ…、救護を呼んでくる!!
しっかりしろ善…!!」
必死な様子で
彼に声をかけた喜一さん。
そして急いで救護を呼びに行ったけれど
その間
彼の呼吸は段々弱々しくなるだけで──。
「…善、様……
しっかり、してください……!」
「………大丈夫だ椿……。
………何ともねェよ……。」
平気で嘘をつく彼に
さらに涙が溢れてくる。
私を安心させる嘘なんて
つかなくていい───。
こんな状況なのに
そんな風に私に言ってくる彼は
どこまで私を
守るつもりなんだろう──。
「…………椿…。」
「…ぅ………っ……何、ですか…?」
耳元で聞こえる
小さな弱々しい声に
そう返事をすれば
彼はゆっくりと手を上げて
震えるその手を……私の頬に添えた。