不器用な愛を刻む
(っ………!!)
力の入っていないその手が
優しく頬を撫でる。
そして耳元で
掠れた低い声が
私に、呼びかける。
「……善…様………?」
「……………フッ……
泣くんじゃねェよ…椿…。」
零れ落ちる私の涙を
優しく指で払いながら
小さく笑う彼。
「………っ…泣いてませんよ…?
…すぐ、救護が来ますからね?善様…。」
だからもう少し
我慢してくださいね…?
そう言いながら
彼が心配しないように
涙を抑える。
そして必死に、笑みを浮かべた。
「…大丈夫、ですからね……。」
「………………椿…。」
「っ……何、ですか……??」
もう1度呼びかけた彼に
優しくそう返事をするけれど
「…………悪いな…椿……。」
──彼はただそれだけ言うと
何か発するのをやめて
その代わりに
頬に添えてあった手が
そのまま下へと───落ちた。
「………善様…?」
「…………。」
「……善様……返事をしてください…。」
「…………。」
呼びかけるのに
返事は一切なくて。
呼吸も
さっきよりもずっと浅くなっていて──。
(…ダメ……ダメです善様……。)
「善様……ダメです、息をして…!」
「…………。」
「善様…!お願い、お願いだから…!」
そう呼んだ声も虚しく
──そのまま
彼の呼吸は止まった。