不器用な愛を刻む





---今より少し前。



桜がちょうど満開に咲いていた頃の
ある日の真夜中のことだった。







椿は最近噂されていた『お尋ね者』に
…運悪くも、家を襲われた。



父も母も、娘を逃がす一心で

自分の命を犠牲に
椿を素早く外に逃がした。






両親を置いて自分だけ逃げることに
躊躇した椿だったが、



騒ぎに気付いた近所の者が
次々自分たちの家から出てきて、



途中 そばに立っていた椿を

良かれと思って一緒に連れて逃げたのだ。






…それから少しして
家から犯人が出て行ったのを察すると

椿は家に戻り



そして---絶望した。







…覚悟はしていたものの

いざ血塗れで倒れる両親を目の当たりにしてしまうと



目の前が真っ黒になる感覚を
止めることはできなかった。




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