天使の梯子
「楓」
少しイラだったようなその声に振り返ると、ドアにもたれかかって笑ってるのに、目が笑ってないその人が私を待ち構えている。
「おいで、楓」
私の名前を呼ぶその声には、逆らうことが許されないような強い響きがある。
「じゃあ、お疲れ様でした」
もう一度救急隊の人たちに会釈をして、私はその人のところに向かう。
目で促されて病院の中に入って、その人が閉めたドアのガチャリという金属音にビクリと身体が震えた。
それを見てその人は、目を細めてクッと低い声を漏らして笑う。
「……あの患者さんは? 大丈夫なんですか?」
内心は心臓がバクバクしている。それを必死に隠しながら、平静を装って気になっていることを聞いてみる。
「ああ、ルートもとってあったし。初期対応がよくてバイタルも安定してたから。今、検査に回ってもらってる。で?」
それを聞いてよかったと、ホッとする。
その人にチラッと顔を見られて、状況を話せということかと思って口を開く。私が残ったのは、そのためだしね。