天使の梯子
楓ちゃんと出会ってからは、本当にピタッと女遊びをやめて楓ちゃん一筋だった。
大学を卒業してからもその付き合いは続いていた。救命医になったあいつの生活は、多忙を極めていた。そんな生活の中でも、あいつなりに楓ちゃんとの時間を大切にしていたと思う。
だから、その話を聞いたときも驚きはしなかった。
「プロポーズ?」
その頃、大学病院で働きながら実家の病院も手伝っていた俺の頼みで、月に何回かうちの病院の当直をしにきていた暎仁は楓ちゃんにプロポーズすると俺に報告してきた。
「ああ。もう付き合って五年経つし、楓以外と結婚とか考えられないから。婚約指輪も買った」
「お前、忙しいのに。ていうか、お前が指輪選んでんのとか想像できないんだけど」
そう言って笑う俺に、暎仁は見たこともないくらい穏やかな顔で微笑んだ。