天使の梯子
「本当だよ。指輪を買いに行く暇があるなら、楓に会いたいのに。楓が憧れてるっていう指輪は知ってたから、選んではないけど」
前から知ってはいたけど、暎仁は本当に楓ちゃんのことが好きなんだと改めて思った。
俺は、暎仁がうらやましかった。ずっと暎仁に憧れていた。大学での成績もよくて、救命医としての将来も期待されていて、順調にキャリアを積み上げていく暎仁に、どうしようもない嫉妬を覚える。
それに比べて俺は、実家の病院を継がなきゃいけないから、本当に行きたかった科に進むことは許されず、それにあきらめを抱きながらもどこかでフツフツとなにかが煮えたぎっていた。
おまけに俺に近づいてくる女は暎仁目当てなことが多くて、いいなと思った子が暎仁を好き、なんてうこともしょっちゅうだった。
とうの暎仁は楓ちゃんに夢中だというのに、だ。
医師としても、男としても、暎仁には敵わない。
医者としてのキャリアも、好きな女との結婚も、どちらも手にしようとしている暎仁のことを、俺は妬んでいた。
幸せそうな暎仁に顔では笑いながら、心のどこかで暎仁が全てを失ってボロボロになればいいのにと、苦痛に歪んだ姿が見たいとそんなことを願っていた。
そんな親友に抱いていた歪んだコンプレックスは、思いもよらない形で表面化して、とんでもない事態に発展する。